「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」関連
思ったよりは「えー」って終わり方だったけど、とりあえずストライクウィッチーズが終わった。本編については、まあ「えー」ってかんじだったのであんま感想とかは無いんだけど（←「見たことのない展開があればうれしかったけど、特にそういうふうにはならなかったな」程度）、ネットではしばらく前から販促キャチコピーか何かの「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」が話題になっていたようだったので、そっちについてうろおぼえ知識＆大雑把世界観に基づく所感とかを書く。
- 「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」
- たぶんテレ東規制の影響からか、TV 放送におけるアニメーションのパンツ露出表現は徹底的に NG という時代があった。「テレ東規制」（テレ東チェックともいう）とはテレビ東京社の倫理規制のことで、それがやたら厳しくなったと記憶されているのは「BLUE SEED」以降。用語として確立してしまっているので、べつにテレビ東京系列じゃない局のアニメでも「テレ東規制」と言われたりしているような気がする。いまはパンチラ程度は普通にあるかんじするけど、それに増して過激なシーンや肌の露出が増えてるので放送用修正も多い。風呂シーンが湯気で真っ白になったり、髪や服が不自然に身体を隠しているように見えるカットとか。また、パンツ露出規制を受けてのオタ現象はべつに TV に限ったことではなく、「パンツが見えてもいい作品・メディアかどうか」が、（とくにアダルトカテゴリでもないメディア上で、且つ暗黙的でない規制として受け手の前に立ち現れたことによって）ひとつの共有された問題設定として周辺でさまざまに遊ばれることにもなった。
- またこの種の規制はあくまで TV 放送時のもので、DVD 版等のパッケージには適用されないことから、同じアニメでも TV 放送用の修正版と、DVD や BD 版の「無修正」版の二つのバージョンを生むことに繋がった。…という流れを逆手に取って、修正を織り込んで「パッケージではもっと過激だから買ってね」という暗黙的な商法が半確立しつつあるんじゃねーかという邪推も可能。
- 余談として、もうちょっと前のアニオタ談義の文脈でいう「修正」「無修正」は、「スケジュールの都合もあってイマイチな作画込みの TV 放送バージョン（無修正版）」と「DVD 版でイマイチだった箇所を描き直したバージョン（修正版）」みたいな順番だったんだけど、規制絡みの話題になると、その順番が逆になっているのはおもしろい。
- さて、ストッチにおいてはパンチラどころかパンモロだ。パンツは標準的に露出しているものとしてデザインされていて、そのうえで「これは作品世界の中では「ズボン」であり、パンツではありません」というエクスキューズをかましている（実際設定ではそういうことになっているらしい）、というのが「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」というコピーに象徴されている。ようはパンチラ規制かいくぐり芸の一種だな。
- 「パンツはいてない」
- （081005 追記：表記間違えた。「パンツはいてない」でなく「ぱんつはいてない」だ。カタカナでなくひらがなで「ぱんつ」。「おぱんつは平仮名じゃないと魅力はんげん」by techle）
- 近年に記憶されているパンチラ規制かいくぐり芸としては、こつえー氏の「パンツはいてない」だな。命名が誰だったかは知らないが、とりあえずこのフレーズをネットで普及させたのは当時の大手個人メタニュースサイト・俺ニュース管理人の techle 氏だったように思う。
- 「パンツはいてない」の理屈は、おおよそこんな順番だ。「もちろん問題のあるような部位の露出は一切ナシ」「パンチラするはずのポーズ」「だけどパンツは見えない」「合理的に考えれば、パンツが見えないのは、このキャラクタがそれを履いていないからだ」。なにごとも適切に規制することはむずかしい。「とにかくパンツが見えたら NG」という一辺倒な基準の脆弱性が「パンツはいてない」を発明させたということができるかもしれない。まあ「パンツ履いてるキャラクタのパンチラカット」と、「ノーパンキャラのきわどいけどセーフなカット」のどちらが倫理的にマシなのかという判断は、結構むずかしいように思うけど。
- 「見せパンだから見えても OK」
- メタ台詞としての「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」
- 上で書いたとおり「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」は作中の台詞ではなく販促コピーだ、というのがちょっとおもしろい。パンツの露出が恥ずかしいものであるという前提がなければこのコピーは成り立たない。しかし作品世界で、現実でいうパンツは「ズボン」ということになっており、パンツは概念自体がたぶんない。まあ一話で主人公のおばあちゃんがモンペを履いていて「ここは「女はパンイチワールド」の基本設定護持よりばあちゃんの尻露出回避が優先の場面ですかー」というかんじだったりはしたけど（←ついでにいうと主人公の母は長い白衣をワンピース状に着ていてスカートなし、幼年時代の主人公はワンピース着用）。ともかく、そんなわけで、キャラクタたちはそもそもパンツを知らないし、知らない以上「パンツじゃないから恥ずかしくない」という発想が出てくることはない。
- というわけで、「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」は主人公のキャラクタを踏まえたコピーでありつつ、作品世界の価値観の外側にはみ出したメタ台詞でもあるわけだ。これはメタ前提時代の技法として特に珍しいものではなく、特にラブコメものとかでは顕著にキャラクタが作品の枠外からの視線や枠外への視線に自覚的だったりする。たとえば「ハヤテのごとく！」とかの場合、作中の登場人物がナレーションと掛け合いをやったりアニメーションの様式に突っ込んだりタイトルに第 37 話のタイトルが「普通の女の子に戻りたい、でもキャラソンは買ってね」だったり、やりたい放題だった。
- そういうんじゃなくもっと単純な話でいうと「キャラクタがカメラを意識しているかどうか」とかの話になるか。弁舌キャラがカメラ目線で演説を打ったり、また風が舞って女性キャラがパンチラしたときに「イヤ〜ン」とか言いつつお尻を押さえてカメラに対して「もーエッチ」とか言うときに、それらのキャラクタはメタの領域に半分踏み出しているといえる（カメラ目線演説についてはメタ視点への意図と別に「アニメキャラ的な演説芸を現実に持ち込んだアニオタ、のさらに反射としてのイタいアニメキャラ」演出という筋合いがあるので単純じゃないんだけど）。
- とまあ脱線したんだけど、ストッチ本編のキャラクタたちは、基本的に作品中カメラへの自覚のない振る舞いで一貫していたように見えた、のにもかかわらず CM 枠で「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」というメタ台詞が出てくる、というそのギャップがおもしろポイントだ、ということになる、んだけど、この間口はちょっと狭いんかなー。
- 「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」の対偶問題
- じゃあ「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」の対偶は何だ、ということを考えたときに、おれは単純に「今度はパンツだから恥ずかしい！」とかにすれば売り上げが五倍くらいにアガるんじゃねーかとか思ったんだけど、やはり世の中には天才が居るというか、自アン見たら「ほら！パンツだよ！興奮したでしょ！犯したくなったでしょ！」という票があって爆笑した。これはちょっとすごい。必ずしも理路は通りきっていないんだけど正解にいきなり到達している気がする。
- そもそもパンチラを支持する欲望は何なのかという話に遡る。大きく「パンツが普通は見えるべきものではないことから機会希少性により煽られる」「とにかくパンツそれ自体を見たい」の二つということになるかと思う。前者がわりと一般的な理屈、隠されているから見たくなるし、隠すべきものが露呈すれば恥ずかしいわけだから、恥ずかしさ×嬉しさで倍率ドン、更に倍、というかんじでエスカレート。後者は、そういう相対的な季節を過ぎたフェティシズムの領域といえて、もはやなにを言っても通じない変態の世界。
- ウィングマンの「見せパンだから見えても OK」は、前者の状態に掛かる対抗処理ということができる。つまり、パンツ露出→「わーいパンチラだー」という男側のぬか喜び、に対して「隠すべきものではない」「恥ずかしくない」と前提を覆すことでのはしごを外す。宙に浮かされたこの多幸感は何？何だったの？という戸惑いの win-win 関係。
- 「パンツじゃないから恥ずかしくない」も形としてはこれに近いが、作品としてもうすこし踏み込んでいる。なんだかんだいってウィングマンの場合パンチラは希少性が低くなかったけど、ストッチは標準的にパンツ見えてるわけだ。見えたから何だというレベル。日常の光景。にもかかわらず、販促として敢えてパンツ - ズボンのねじれを強調するコピーを持ってくるというのは、「恥ずかしがっていないものに興奮する」というねじれたジャックインを挑発する行為なわけだ。
- というわけで、そのように単純ではない「パンツじゃないから恥ずかしくないもん！」の対偶として、「ほら！パンツだよ！興奮したでしょ！犯したくなったでしょ！」はスゲエとしかいえない。べつにそんなもんですらないヌルオタを捕まえてきてフェティシズムのレッテルで宙吊りに晒し上げて鞭打ちに処するかんじ。深夜疲れきって休憩に自アン見ていた SE の発作的な苛立ちや同属嫌悪的な残虐性とかが込められている気がするよ。
とかなんとか。
