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腐女子トークを傍聴 その 3 - Appendix 的ななにか

もうちょっとだけ続くんじゃ(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20090518#p1)。というかこれが本題。以前、たしか 2007 年あたりに、腐女子文化圏の大雑把なマッピングを試みたことがあって、なんでそんなことをやったのかというと、例の NERDSCAPE 記事(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20080311#p1)のオマケとして基礎知識的なデータを準備しようかと思ったからだが、結局本文だけでもページ数が嵩みすぎてボツにして、ともかく、そのときリストアップしたカテゴリは以下の五つだった。

オタって外側からみると皆均質にオタってかんじだけど内部の人間からすると全然違うんだよという話になる、のと同様に、腐女子も外から見ているぶんには大体同じに見えつつ、実際には個別にやってることが全然違ったりするので、先日得た認識を踏まえて軽く分類すると、以下のようになる。なお、ほんとはもうひとつ「百合」カテゴリがあるんだけど、これを入れるとかなり面倒になるので、今回は除外しておく。

  • 腐女子チャート

えーと…、やっぱもうちょっと解説。

  • やおい
    • 作品に登場する男×男の関係性をモフモフする。詳しくは後述。
  • BL(ボーイズラブ
    • 作品内で描かれている男×男の関係性をモフモフする。詳しくは後述。
  • ノーマルカップリング
    • 作品内で描かれている男×女の関係性をモフモフする。
    • たぶん男オタにとって最も理解しやすい作品消費形態。
  • ドリーム小説
    • 作品に登場する男(と読者や、二次創作者のオリキャラ)とのロマンスをモフモフする。代表的には「あのキャラクタが私を口説きに来る」的な妄想、といえばいいか。web 上で発表されているドリー夢小説には、Javascript を利用してヒロインの名前を自由に入力できる様式が多くみられる。
    • ドリー夢小説以外はすべて「作品中の複数の登場人物を、関係性ごと抜き出してくる」妄想であるのに対し、ドリー夢小説だけは「作品中の関係性からキャラクタだけを抜き出してくる」妄想であるため、今回リストアップした中ではかなり異質なカテゴリということになる…だけに、男オタとしてはわりあい理解しやすいはず。
  • 女体化
    • 作品に登場する男×男の関係性の、受け側の性別を女性に転換することにより、男×女という図式に置き換えてモフモフする。
    • 個人的にはこのジャンルが男にとって最も難解、というより受け容れるのが困難なジャンルだと推測する。女体化作品を理解しようという試みは「多分わかるんだが、わかりすぎてしまうのはヤバい」という、己の見えざるジェンダー拘束具との衝突を起こすので。

この図をもとに、それぞれのカテゴリの関係性について、さらに追記。

BL は、カテゴリの特殊性が大きい

さっそく図解の意味がないという話になってしまうんだが、どうも BL も単に「男×男」だからという理由でやおいと並べるのは乱暴だし、また一次創作上で恋愛を描くからノーマルカプと近しいなどとはいえない、ようだ。確かに何冊か読んでみて違和感あるよなーと思ってはいたんだが、言われて納得、BL って大概の作品において「男×男の恋愛が当然である異空間」を舞台としているわけなのだよね。BL 世界においては、男が男にナンパされるのは当然で、したがって登場キャラクタには「あれ、…これってアブノーマル?」みたいな葛藤や屈託があまり無い(←「ストライクウィッチーズ世界にはパンツという概念が存在しないので、登場キャラクタはパンツ一丁で飛び回っていても恥ずかしくない」みたいなものだ)。で、そうした気分は「男×男の一次創作」という要素の組み合わせから必然的に立ち上がってきたもの、とはいえない。男×男の恋愛を描く一次創作でありながら BL のような異空間ではないもの、としては、JUNE とかがあるという話になる。

傾向として、受けの男の描写はほぼ性別置換可能ってのもあるか。「「これ(受けの男)は女だ」と念じて読めば、男でもさほど違和感なく読めるエロ本」と言うことも(乱暴には)可能だ。だから、男×男の恋愛が当然である異空間を舞台としたアブノーマルな恋愛を描く、と要素抜き出しでいえば刺激が強そうなカテゴリではあるけど、その支持層ってたぶんかなりライトなんだね。ミーハーっていえばいいのか。彼女たちにとっての BL の魅力のうち重要なのは「それが異世界であること」なんじゃないかなと思っている。普通では絶対ありえないド派手なヤツ、が存在するためのハレの舞台装置、という図式でいうと、たぶん芸能界とかテニミュとか宝塚とかなんとか、そういうものに集まって「キャー」って言いたくなる心理を、JUNE 的な土壌と掛け合わせて商業的に誕生したのが BL ってことなんじゃないだろうか。

したがって、BL はやおいとは全然別物といえるし、また要素的にかなり近い JUNE とも親和性は低い。というか、BL 視点でいえばどうでもいいのかもだが、BL 以外のカテゴリに帰属意識をもっているひとは BL への拒否反応が強い、といったほうがいいか。

やおいは拡張現実の一種だ

やおいと BL の違いの単純な説明として「BL 商業、やおいは同人」みたいな言い方がある。先述のとおり、やおいと BL の本質的な違いはそういったものではないのだが、しかし表層的には BL は商業ジャンルとして展開し、やおいは同人から発生したのだから、その言い方が誤りだとは言い難い…んだけど、やっぱりどこか乱暴すぎる気がして収まりが悪かった。のだが、ひっくり返して考え直すとスッキリした。つまり、なぜ一次創作ではやおいが成り立ちづらいのか?…ということだ。

O さんの「やおいはノーマルカプと比較的親和性が高い」という言葉があって、それでスパーンと回路がつながった。ノーマルカプを愛好し、且つやおいも楽しんでいる腐女子が見ている「作品という現実」はひとつではない、ということだからだ。ノーマルカプ、つまりファクトとして描かれる作品世界(認知レベル 1)が存在し、同時にやおいによる物語をオーバレイ表示させたもうひとつの仮想世界(認知レベル 2)が存在し、その両方を同時に楽しむという態度だ。これをオタク向けに翻訳すると「拡張現実」という考え方が理解しやすいんじゃないかなと思った。

社会生活における個人の多面性、ネットと暮らしの二重性などを挙げるまでもなく、世の中は単純な細部の集まりが複雑系を形成し、おまけに多層的だから、厄介だ。真実はひとつ、いや真実はひとつではない、真実はひとそれぞれ、とかなんとか揉みあいながら、もうちょっと踏み込んでいえば「現実はひとつではない」が現代社会の身体感覚というやつだと思っている。ただし、それら現実は重なり合っており、個々の現象は常に複数の現実に干渉し、密接に絡み合う。拡張現実(強化現実)といえば、なんとなくそこには「正しいメタ情報が現実空間にオーバレイ表示・処理されることで生じる諸問題」みたいな印象を持つわけだが、おそらく実際には誤った・破損した・不適当なメタ情報も氾濫することになって、…というようなことは、アニメでいうと「電脳コイル」とか、あと見てないからわからんけど多分「東のエデン」とかが描いている、んじゃないだろうか。

で、そのようなもののひとつに「やおい」を混ぜてみると、結構納得した。やおいファクトではないメタ情報として、現実にオーバレイする形で生じる。やおいは必ず二次創作として生まれるのだ。腐女子は拡張現実としてそれを認識する。そして「自分が見たもの」「自分に見えている世界」を仲間と共有する。「ホモが嫌いな女子なんかいません」という大野加奈子の台詞を信じるなら、やおいは「腐女子という特殊な嗜好を持った一部の女子の趣味」ではなく、女性一般に共感可能性をもったなんらかの感覚に根差していると言えるのかもしれない。ともかく、ファクトではないやおい現実は、その他の諸現実とは競合しないため、どれほど色濃かろうと無害だ。ただしそこには「もしかしたら…」という臨界への感覚が常に潜む。仮想が現実をオーバーライドするという事態はサイバー SF において頻繁に描かれるから、そのせめぎあいがどのようなものかは理解可能だ。オカルトであり、焦りであり、恐怖であり、誘惑だ。

で、ノーマルカプとやおい両方いけるクチな腐女子の心理というのは、たぶんアレだ大長編ドラえもんのび太の魔界大冒険」において描かれたのび太の態度に近いんじゃないかと思ったんだよね。「魔法ナシの普通の世界」と「もしもボックスで自分が作った魔法アリの世界」の両方があったときに、…ええとめんどいのでむかしの日記から引用すると、「現実を拒否して空想に逃避したり、過剰に現実を肯定するあまり空想を否定したり、どっちか一方だけ選ぶみたいな貧乏くさい(余裕のない)選択でなく、自分自身の現実がどちら側なのかの区別ははっきりしていて、自分はいずれそこへ帰るのだという意志を踏まえたうえで、現実だろうともしもの世界だろうとそこにリアリティの区別はなく、つまり今となってはどっちもリアルなんだから、どっちも捨てないんだということ」(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20080519#p1)だね。

…指が疲れたからこのへんでやめ。