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ひと夏の経験値

ONE STEP AHEAD

読み終わった。おもしろかった。

たまに(紙面から放射される酸味に耐えられず)本を放り出してしまうため、読み進めるのに多少時間がかかった。最近ひねくれた作品を多く読んでいた関係で、展開に二ひねりくらいあるのかと思っていたのだが、これは極めて素直に展開して終わったかんじの本だった。90 年代初頭の大阪(?)を舞台にした TRPG サークル青春小説。おれの中での位置づけとしては、80 年代の東京町田を舞台にした田尻智パックランドでつかまえて」などにも近い。ある意味でおれの待望する「ゲーセン小説」などにも通じる、つまりは「オタクの現場」の当世風俗をきちんと描いてある作品のひとつ。もちろん「パックランド〜」は半自伝的なエッセイ的存在で、「ひと夏の〜」は(多少作者のひとの経験に基づいているとしても)フィクションであるという違いはある。けど当時の気分やオタマインドをじつによく描き出している時代小説としておもしろい。おれは TRPG とまったく無縁だったわけではないのだが、しかし物心ついて以来「なにかを演じる」空気にどうしても抵抗があり、ハマることができなかったので(へんな話だがメイド喫茶とか、ああいう「なにかが職業的に演じられている場」もかなり苦手だ)、この小説に対して「TRPG 者」としての同調などはないんだけど、遠からぬ位置には居たオタとして「わかるぞ、おれにもよくわかる話だ!」みたいな部分がかなりあって楽しめた。

  • まず TRPG 小説の時代設定として 90 年代初頭というのが絶妙。黄金期ゆえジャンル自体をメタに透視したりする必要のなかった、ある種幸福な時代における、素朴な青春小説になっている。
  • この本は富士見文庫から出てるんだけど、わりと他社から出ていたような TRPG 製品名なども出てきていていいかんじだ。歴史考証としては、このへんの年代がきっちりしているかがまず押さえられるんだろうけど、あんま詳しくないのでとりあえずスルー。
  • のっけから「自称天然女」が登場して、読者のハートをグッと掴む(こいつ…わかっていやがる!)。
  • 主人公の無駄に熱い童貞的義憤がいちいちおもしろい。
  • TRPG サークルにかわいくてやさしい女の子が…」というシチュエーション自体は相当にダウトだと思うが、しかし彼女を迎え入れる側の男子共の心理や言動描写は極めてリアル。
    • しかも彼女の「洋モノファンタジーはある程度読んでる(ゲド・指輪・エルリック等)けど TRPG は初心者」という設定がダウトすぎる。罠です!後ろからも敵が(←「THE 地球防衛軍」)!そして主人公の国産ライトファンタジーしか読んだことないという設定が痛すぎる。馬鹿もんそこいらへんは中学生までで読了しておけ!などと、当時の受験戦争兵士的なオタマインドをドライブさせつつ読んだ。
    • これと似たダウト判定意識が喚起されたのは、平成ガメラ 2 で「自室の本棚のゲド戦記の裏に酒を隠しているヒロイン」という描写を見たときか。脚本伊藤和典氏だしなー、へんなところにへんな地雷を敷設してくるよなと劇場でニヤニヤしながら見ていた。
  • 友人の一人が一念発起脱オタきたー。そして以降特に話に合流してくるようなことも(物語上の強引な波乱が)ないのも、リアリティとして好感。まあ夏休み明け以降にはいろいろあるんだろうなとは思うけども。
  • あまり関係ないが、べつの筋合いで最近「草食動物系」というようなキーワードでオタ男子語りをしていたこともあり、そこいらへんでも興味深かった。
  • 古参オタ向けの毒物としては、淡いのだが(たとえば「自称天然」系の女子のひととなりについて、ストーリー展開に絡んでもうちょっと掘り下げがあるかなと思ったけど、軽く匂わすに留まっていたりとか)、この淡さが逆に味わいとして効いてくるかもなというかんじ。
  • とにかくにも、「このての小説」がもっとたくさんリリースされてほしいオタとしては押さえておくべき一冊だろう。

…あと、蛇足というか細かいんだけど、時代小説として気になった部分も一点ある。132p 目の以下の記述だ。

だからといって向こうのホームまで走っていく、というのも問題がある。場合によっては彼女たちに「えっ。ストーカー?」などといぶかしがられてしまう!

この「ストーカー」という用語が一般化した時期だ。作品年の数年後な気がする。もちろんオタ語としてであれば士郎正宗アップルシード」等によって「隠密接敵(ストーキング)」や、またそれこそ TRPG の場合モンスター名「invisible stalker」など、「ストーカー」に類する用語には当時から親しんでいたと思うが、しかし一般語としてのストーカーはなあ。ストーカー規制法は平成 12 年=西暦 2000 年公布(http://www.npa.go.jp/safetylife/stalkerlaw/stalkerhomepage.htm)、てことはまあ法律になる数年前から現象としては認知されていたとしても、ストーカーが起こす事件などがドラマになったりとかしたのは 90 年代中盤くらいじゃなかったっけ?

と思って聞いてみたら、

これで検索をかけてみたんですが、1995 年に一件、1996 年に二件邦訳された文献が出ており、1997 年に 15 件、1998 年に『実録!サイコさんからの手紙:ストーカーから電波ビラ、謀略史観まで!』が出ているので、この辺りが認知され始めたころだと考えるのがちょうどいいのかなあとも思うのですが。

との指摘。なるほど。べんきょうになるなあ。まあこのへんは、京極堂が「経験値」とか言うようなものだろうか(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20060518%23p1)。それとも案外大阪とか大都市圏では 90 年代初頭からストーカー問題への意識があったんだろうか。この当時おれは田舎在住だったのでよくわからん。