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人称管理関連

北方水滸伝公式サイトなど眺めていたのだが、Q&A ページの下記の問答をみて「あー」と思った。

    • 先生、前から疑問に思っていたのですが、公孫勝は自分の事を、私と言う時と俺と言う時があると思うのですが、その時の心情なので、先生は書き分けていらしゃるのですか?口元に冷笑が浮かぶ公孫勝には、俺より私が似合うと思うのですが(笑)、先生宜しくお願いします。
    • 公孫勝にかぎらず、すべての登場人物について記すことにする。自分をなんと言うか、私は相当神経を使って書いている。俺と言っていた人間が、私と言えば、それはそういう状況の中にいるか、そういう相手に向かっている、ということになる。逆に、俺と言っていた人間に、私と言わせれば、説明しなくてもそういう堅苦しい状況に入った、ということになるのだ。私が、自分の呼称について拘るのは、説明を削り落とせるから、と言ってもいいであろう。

北方氏はワープロも使わず万年筆で執筆しているというから、たぶんプロット作成とかも機械的な支援を利用してないんじゃないかと思うんだよな。てことは、かなり高度なことを脳内で完結させつつ作業しているということになる。もちろん、ここでいうような「かなり高度なこと」は人間がやったほうが効率良いことが多いので、それが最適でもあるんだろうけど、人間はたまに間違ったり、あるいは問題をより上位のレイヤで解決してしまったりするので(たとえば設定衝突に遭遇した際、設定の修正でなくプロットの変更で解決したりとか)、そうやって出来上がってゆく小説は、読んでいて(たぶん書いてるほうも)縦ノリ重要というかんじの作品になる。そして、北方水滸伝は、それだからこそ良い。

この話を小説でなく ADV ゲームとかにもってくると、人称表みたいな用語が出てくることになる。たとえばこんな。

- 忍者キッド レオン キュンポ
忍者キッド 吾輩 レオン キュンポ
レオン 忍者キッドさん オレ キュンポっち
キュンポ 忍者キッドさん レオンさん

このてのテーブルが存在する理由は「複数人でライティングする場合規則が絶対必要」「一人の場合でも作っとけばミスが減る」らへん。あと人称は、不自然にならない範囲でなるべく被りがないように作っとくほうが「誰の誰に対する台詞か」が台詞読んでるだけで分かるので親切度 UP というか、それやんないと雑とかそのてのノウハウも(Q&A コーナーで北方氏が説明しているのは、これをさらに「TPO にあわせて変化させる」というさらに上位のカスタマイズだ)。でも「DMC ファンは全員がクラウザーのことを「クラウザーさん」と言うので誰の台詞かわかりづらいんだけど、そもそも DMC ファンは個体認識する必要がないので全然オッケー(というかこの場合「クラウザーさん」という人称によって「あ、この話者は DMC ファンだ」と把握できて便利)」みたいな例も。

もちろんストーリーが進行すれば立場が変わる場合もある。たとえば忍者キッドとキュンポがラブラブになるルート分岐を考慮した人称表はこんなかんじに。

- 忍者キッド レオン キュンポ
忍者キッド 吾輩 レオン キュンポ
(告白イベント後)
キュン
レオン 忍者キッドさん オレ キュンポっち
キュンポ 忍者キッドさん
(告白イベント後)
キッド
レオンさん
(告白イベント後)

もちろん話が複雑になればこんなもんで収まるわけはなく、テーブルはより細かくなっていく。けど結局「すべての情報が記載されていればいいようなものだが、あまりに書き込みすぎた表は可読性が落ちて作業効率を落とす(あるいは単純に巨大化した Excel ファイルのせいで低スペックな作業 PC のパフォーマンスが低下する)」「表はひとに見られ、かつ理解されてナンボ」「把握を補助すべきで、把握するために努力を求めるのは本末転倒」「完成させるべきは出来のいいシナリオで、完璧なイベントテーブルではない」など諸々の事情により、適度な適当さが求められることになる。さらに縦横以外の部分に飛び火するような人称変化の注意点などは、表の一覧性を落とさないためにも、別途作業ノートとして添付されたりする。

ここいらへんをすべて最高級の柔軟さで処理する方法のひとつは、もちろん「作表などせず、全部一人の人間の脳内で完結する」ことだが、「チームで作業する必要がある場合「すべてはここ(←といいつつ自分の側頭部を人差し指でノックする)に入ってる」とか言った瞬間ハンマーが飛んでくる」「長く複雑に絡み合うシナリオの全容を、脳内作業スペースに一度に展開できるという甘い予想は立てないほうがよい(全部展開してみないと取れないバグはある)」などの理由によって、やっぱ手間はかかっても外部化しといたほうがなにかと便利でよろしい、となる。

とはいうものの、なにせ人間関係やストーリーの流れなんて、もともと二次元的に記述できるようなもんじゃないわけよね。最終的にはどうとでも吐き出せるにせよ、資料の時点のそれは時空間を圧縮してあるわけだから。紙とかに印刷可能の平面が、最適の記述式であるわけがない。ピカソ氏にでも頼めば、あるいはイケてる作表してくれるのかもしれんけど、こっちの理解が及ばない危険も大きい。けど紙って強いわけよねーなにかと。メディアとしての取り扱いの手軽さが、記述式の煩雑さを上回って効率に寄与したりもするので。でもそれだと柔軟性が失われる。とはいえ共同作業において、「柔軟性」はよほどうまく制御しないとシナリオバグに直結するから、柔軟性の喪失はそのまま手堅さとして歓迎される。けど、それだと縦ノリのダイナミズムは生まれにくい。

まあチーム全員データベース共有する専用の支援ツールでも使ってシナリオ書けばいいんだろうけど、そういうの使ってるゲーム会社とかあるのかなー。海外は知らんけど、日本だとほとんど「うちは ExcelAccess)でやってます」な気がするな。家庭用のデカい会社なら自社でツール作ってたりしそうな気もするけど、逆にそういうところほど凄腕の Office 使いとかが居てどうにかなっちゃってたりするような気も。ていうか一番面倒くさいテーブル管理とか必要なのは ADV 開発が盛んなエロゲーということになるだろうけど、エロゲーは開発規模小さいのであんまそういう部分にまで手が回ってなさそうな気がするし…(シナリオ分岐の単純化には、そういう中間コストのかかる開発を避けるというメリットもあっただろうし)。

- 忍者キッド レオン キュンポ
忍者キッド 吾輩 レオン / 貴様 / こやつ(あやつ) キュンポ / 君 / 彼
(告白イベント後)
キュン / お主 /こやつ(あやつ)
レオン 忍者キッドさん / - / - オレ キュンポっち / - / -
キュンポ 忍者キッドさん / 貴方 / 彼
(告白イベント後)
キッド / お前 / こいつ(あいつ)
レオンさん / 貴方 / 彼
(告白イベント後)
  • 忍者キッド:告白イベント後、キュンポと二人きりのシーンで一人称が「朕」に変化します。
  • レオン:忍者キッドが居ないシーンでは忍者キッドに「さん」付けしません。
  • レオン:キュンポと二人きりのシーンで一人称が「レオン」に変化します。告白イベント 2 以降は「オレ」に戻ります。

相手により一人称が変わる、だけでなく、その場のメンバー構成によって一〜三人称が微妙に変化したりすることは現実ではよくあるけど、そういう細かいところまで詰めるのはむずかしい。言い間違いやウッカリによる人称変化も、現実に起こりうる自然なことのひとつなんだけど、ゲームでそれやると「そのキャラの間違い」ではなく「シナリオバグ」になってしまう。あと気持ちの揺らぎによる人称ブレとかも表現(というより管理)しづらい部分か。たとえば「山田くん」と呼んでたヒロインが「太郎ちゃん」と呼び始める、みたいなアレ。大概の人称変化はイベントで管理されるので、イベント前・イベント後ではっきり変わり、どっちもアリな移行期間がない。「太郎ちゃん」と呼びかけるつもりが振り返った彼氏の表情がめちゃくちゃ不機嫌だったので、おもわず「…山田くん」と言っちゃった、みたいな柔軟性は、システム側では持たせられないので個別の調整ということに。それもライター個別のスタンドプレーを許してはせっかく管理してる意味がないので、リクエストを吸い上げてチーフが決めて会議で共有みたいなかんじでああああああめんどくさそう。

ともあれ、小説家はやはりワンマンアーミーであるなあと思ったりした。