パスタでダレる 2
体調も良くないので昼飯は食わないつもりだったが、頭がグルグルしてきたのでせめてこれを落ち着けるべく腹に重量が必要だとなり、軽くもなく重くもなく…という食いもの屋を探したが適当なものがなく結局スパゲティ屋。味に関する評判を聞いたことがない。ということは誰も入ったことがないということで、誰も入ったことがない店というのはオーラがなく、オーラのなさは危険信号だ。つまり、たぶんおれはこの昼飯を失敗する。というかもうした。しかしほかに選択肢はなかった。胆力の抜けきった昼時のおれは意思を固めることもできず保留を重ねここに辿り着くことしかできなかった。カルボナーラを注文。昼からカルボナーラというのも大概だが、もうこの時点でだいたい覚悟を決めたい気分だったので敢えて毒を注文し皿まで食う構え。水のようなスープに漬かった黄色い物体が来た。しかも麺の茹で加減がイマイチで食いづらい。怒り狂ったカルボナリ党が物凄い勢いで店内に革命政府を樹立しそうな勢いでおれの胸の奥に小さな嵐が渦巻く。しかもなんだか食ってると妙に舌がピリピリする…このいやなかんじは…明太子だ。このカルボナーラ明太子スパが混じってやがる。たぶんあれだ厨房でパスタ制作担当者のひとが直前に明太子スパ作って調理器具の洗浄を適当にやった結果おれのカルボナーラに明太子が混入したか、でなければこの店のカルボナーラは隠し味に明太子を使っているという話だ。よりにもよって明太子をおれに食わすつもりか。確かにおれは九州人だが明太子のことは大嫌いで通しているのだ。九州人全員が明太子を愛していると思っているなら間違いだ。お好み焼きが苦手な広島人だって居る。バスケの苦手な黒人も居る。いやこのスパゲティ屋の店員はそんなことにさえ関心を払うまい。彼らは目の前に積まれたタスクにしか興味がない。先払い制の店内で、すでにスパゲティを食い始めている客など「終わってる頭数のひとつ」に過ぎない。ただひとつおれがなにかに敗れたことだけは確かだが、その敗北を拾って勝ちとする者もない。思えば今日は今朝からなにもかも調子がおかしかった。ボタンのかけ違いだ。その結果が明太子入りの水のようなカルボナーラだ。なにかこのところパスタと相性がよくない。どう理由を探してみてもおれの自業自得だ。
そんなこんなで今日も腹の調子が悪い。