魔窟ちゃん探訪
金曜夜半というか土曜未明あたりに K さんから電話があって、なぜ電話があったのかといえば今週末に DVD を借りる約束をしていたからだが、土曜夜は新文芸坐かどこかでソクーロフ氏監督作オールナイトがあるのでダメなので今日がいいという話になり、いまから遊びにいくことになったが、すでに二徹状態で LUMINES LIVE! 買ってみたはいいがまともにプレイできるような脳でもなく、これはこのまま布団に倒れこんで寝入りだなと思っていたところだったので若干疲れた。けど開き直って外に出て、テクテク歩きはじめてみるとなかなかいいかんじの夜間散歩日和だったのだなとわかった。わずかに霧が出ているのかグレアがかった夜景に近代的なビルや高架の光源と陰影。寝静まる住宅地と眠らない幹線道路をクネクネ折れ曲がりつつ歩く。この「どこまで行っても抜け出せない感」と「どこまででも行ける感」のないまぜに飽きないまま数年経ってるんだなと改めて気付く。
で K さん宅に着いてみたら着実に魔窟化が進行していて、もう後期型と呼んでもいいレベルに達していた。具体的には「素人は扉を開けてもまず玄関(だったはずの空間)に分け入ることができない」「モノが地層のように積み重なっていて床がまったく見えない」「移動する際足が深く埋もれるので、自分がいまなにを踏んでいるのかわからない」「寝る場所以外にひとの座れる水平な空間がない」など。後期型魔窟にもいろいろあるが、K さん宅の場合はだいぶカオス寄りと言っていいだろう。「良い後期型魔窟」というのは、「モノが充満しているが、じつは意外に清潔(モノの中に純然たるゴミが存在していない)」「密林化してはいるものの、じつは家主にとっては整頓された状態である(だいたいどの地層になにがあるか把握している)」というような要件を備えているものだと思うが、K さん宅の場合「たぶん(破れたダンボールや梱包材など)純然たるゴミも多く混じっている」「本人も(重要品を除いて)なにがどこにあるのかあまり把握していなさげ」というような按配であって、まあさすがに(空きペットボトルを除いた)生活ゴミなどはほとんど存在しないが(そこが「単なるゴミ屋敷」と「魔窟」の決定的な違いである)、集める気持ちが強すぎてこうなった系というよりは、それもあるけど片付ける気が皆無だったのでこうなったよ系の典型例であるのかもしれない。モノの集積度という点でいうと、まだまだ(「人間の居住空間」という基準ではなく、あくまで「魔窟」として)改善の余地がある気もするものの、一見して「これはこれで」のレベルに達していたので、後期型と脳内認定しよう。だだっぴろいインダストリアル感と共に散歩してきたあといきなりこの高密度閉塞空間に入ってしまったため、多少感覚が狂っているかもしれない。モードが変わったかと錯覚するほどに密度感の違うド画面が並存するなんてさすが現実はゲームより途方もないぜ的な。
映画を見て、DVD を借りて、体力の限界でもあり、帰った。ソクーロフオールナイトは行きたかったような気もしたけど、この夏には「太陽」日本公開もあったことだし、なんかまたぞろオサレなひとたちが大勢詰め掛けたりしてたらいやだなと思ったので(以前にもソ連映画特集を見に行った際に大混雑で、あまりの人いきれに耐えられず一本目で帰ってきてしまった)、行かないことにした。勿体無いことしたかな。でもおれにとって混んでる映画館というのは最悪の場所のひとつなんだよな。