ピンポン
見てきた。おもしろかった。おすすめ。
名作とも傑作とも言い難いし、原作にあるかっこよさとかはやはり再現できないかんじだけど(あの漫画の味わいを実際に演技でやるのは無理だろう)、でもかわいくてすがすがしい、いい映画だったと思う。各キャラも立ってた。
- ペコ
- 予想してたより良かった。頑張ってるかんじだし、ときどきはペコをモノにできてる感触さえ感じとることができた。日本のどこにでも居そうな生意気さでありつつ、日本人には演じられそうもない突き抜けまくったペコというキャラクタを、よく追っかけたと思う。なんといっても、こいつはちゃんとヒーローを背負えてると思えた。
- スマイル
- コン
- 原作とは全然違うけど、これはこれでとてもいいキャラを出せていたと思う。原作のコンはかっこよかったけど、映画のコンは、好きになれそうなやつだった。あと 1 つでいいからエピソードが欲しかったところだ。このキャラはもっと活かせたと思うし、残念だ。
- 風間さん(ドラゴン)
- すごく頑張っていた。眉すらなく、テカりすぎなくらいそり上げた頭に、初登場時は客席から笑いが出た(これは制作者が当然狙ったところだと思う)けど、試合シーンになると、風間さんが時代がかったものすごい台詞をバシバシ言っても、観客は誰ひとり笑わなかったものな。
- 役者の迫力だけじゃない、演技の迫力ってやつだなあと思った。正直言って配役自体には若干不満があったんだけど、あの演技で「ああ、ドラゴンはこのひとが適役だ」と思えるようになった。
- アクマ
- エクセレント。おれこのキャラ好きなんだよね。アクマそのまんま。おもしれえよこいつ。だいすきだ。かっこいい。例のポーズもきまってる。生で見れるなんてうれしい。
- 強いて難点を挙げるなら、役者さんの身長と体格が、おれの原作に対するイメージよりも立派すぎるかなあという程度。もっと華奢で激しいやつかなと思っていた。あと、もうすこし出っ歯だったら完璧ってかんじか。
- アクマの彼女も、漫画のトロそうな雰囲気とはまた違う印象だったけど、お似合いっぽくて笑った。
- バタフライ・ジョー
- うーん。でもまあいいかな。竹中直人氏だしな。まあ。
- ばあさん
- いいんだけど、おれとしてはもっとデブでしわくちゃで不貞腐れたかんじのひとにやってほしかった気が。
- 後半、「愛してるよ」という台詞のとき、このひとの喋りはちょっと上品すぎるかなあと思ってしまった。酸いも甘いも知り尽くした卓球ババアの、搾り出すような、それでいてどうでもよさそうなことばとは受け取れず、なんというか、酸いも甘いも知り尽くしたこの道 40 年のジャズバーのママ、みたいなかんじに聴こえてしまった。
- 100 点だけど満点じゃないぜ、というかんじのもう一歩。このキャラがガチっとはまれば、多分映画版「ピンポン」ってばものすごい勢いで大傑作になったと思うんだよなあ。ある意味、ペコでもスマイルでもなく一番重要なのはこのキャラがハマるかどうかだみたいな。
とかなんとか色々あるけど、見終わって、ものすごくいい気分で映画館を出れた。こんなに後味のいい映画ってのはひさしぶりだ。ニコニコしながら電車に乗って、帰りに閉店間際の酒屋でチューハイ缶を買って、あの鼻歌をきざみつつ、グビグビやりながら帰った。ああ、いい気分になった。ありがとうってかんじだ。
で、細かいはなしになるけど。
- 映画版のアクマの決め台詞のひとつに、「飛べねぇ鳥も居るってこった」というのがある。おれは、映画の出来不出来とかいう問題ではなく、この台詞にものすごく引っ掛かりを覚えた。今も感じている。この台詞、確か原作版では「飛べねぇ鳥も居る」だ(ちょっと記憶曖昧なんだけど)。映画のアクマは漫画のアクマよりも「ってこった」ぶんだけ余計だ。おれが漫画「ピンポン」に感じているかっこよさというのは、主にこうした台詞の洗練からくるものだ。というかこれは「ピンポン」に限ったはなしではなくて、漫画全般においてそうだ。どんなに絵的にかっこいい構図を見せられようと、キャラの台詞にちょっとでも甘いところを感じてしまったら、もうその時点でそれはかっこよくなくなってしまう。
- 「飛べない鳥も居るってことだ」ではなく「飛べない鳥だって居るのさ」でもなく「飛べない鳥も居る」。簡にして要を得る、ことば通りそのまんまの台詞。極めてシンプルなものの積み重ねとして語られる物語には隙がない。そして「ピンポン」は、そのような漫画のひとつだと思う。と思っているところへもってきて、「飛べねぇ鳥も居るってこった」なのだ。この台詞は、甘い。漫画にはなかった甘さだ。だから、おれにとってはこの台詞こそが、原作と映画の温度差を判断する指針になった。
- 「ピンポン」を映像化するとき、漫画そのままのノリではあまりに硬質すぎて映像にできなかったろう。柔らかすぎる物語にリアリティはないが、逆に硬すぎても実写でそれをやると不自然さばかりが目立ってしまって、いい映画になってくれない。漫画で、作者ひとりで、絵と台詞だけで語るのならできることだけど、映画ではそれをやれない領域というものはある。逆に言うと、映画でならサクっとできたりもする、硬軟の間を取ったような気分を物語を弛緩させることなく漫画に持ち込もうとすると、これまたほとんど不可能事とも思える難事になってしまうわけだ。それぞれのパーツをもっと人間が演じられるように(人間の演技を最終形として、最も自然になるように)あちこち調整を施したのだろうと思う。役作りや演技もそうだろうし、映画に組み入れるべきシナリオの洗い出しももちろんそうだろうし、キャラそれぞれの台詞もそうなのだろう。
- 「ってこった」は、追加されなければならなかったのだろう。そうしなければたぶん、映画「ピンポン」の空気は、おかしなものになっただろう。いいとか悪いとかではなく、そう思った。
予備知識として一応入れておいたんだけど、試合シーンの観客席とか、全部 CG のはずなんだけど、ほとんどわからなかったな。非常にうまーく誤魔化してあった印象。カッチリまとめていい仕事してるなあと思った。