matakimika@hatenadiary.jp

WELCOME TO MY HOME PAGE(Fake) ! LINK FREE ! Sorry, Japanese only. 私のホームページへようこそ!

ゲーセン小説についての欲望

JR 御茶ノ水駅 | 060505

去年の五月頃の話(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20050510#p5)からつづくんだけど、なんでまた「東京ヘッド」かという話だ。大塚ギチ氏については前述のとおりこの本でしか知らないし、東京ヘッドはバーチャ的な重要さでほかの書籍から抜きん出ているわけでもなかった。東京ヘッドが残ったのは、それがゲーセン小説に近い形態の本だったからだ。ゲーセン小説の類はとにかく少ない。「東京ヘッド」を除いたら、田尻智パックランドでつかまえて」くらいしか思い当たらない。そういうのがあれば読みたいとずっと思ってきたし、いまでも思っているが、見つけるのがむずかしい。で、「パックランドでつかまえて」は良著ではあるんだけどなにぶん昔のことだから読んでおもしろかったけど困った。世代がひとまわり上。おれの知ってるゲーセンの話ではない。そのひとまわりぶんで、タイトルが置き換わって技術が革新されただけでなく、対戦格ゲーが入ってきた。対戦格ゲー以前と以後では舞台装置が全然ちがう。複合状況的なドラマがわかりやすい形で成立しうる。だから「パックランドでつかまえて」を読んで以降、つまるところ現代(当時)版のこれに相当する小説なりエッセイ群なり何なりの読みものが必要だという思いがずっとあり、しかしそんな本はなく、どうしてないのか不思議に思いつつ、いまさら山下章氏の著作群に戻るわけにもいかず、満たされないまま時は過ぎ、もういよいよ格ゲーブームも終わろうという頃、最後にようやくいっこだけ出てきたのが「東京ヘッド」だったという按配。パックランド田尻智氏の半自伝的な語り口だったが、東京ヘッドは大塚ギチ氏の取材に基づいたドキュメンタリー調の語り口に、当事者たちによるインタビューがついてくる。主観から客観へ書き手の視点がシフトしているのは状況推移を考えれば自然だ。そしてそれでもまだ足りない。東京ヘッドはとても不完全だが、いまのところこれしかないので、いずれ来るかもしれない本物のシンボルのかわりに、当座それを置いておくしかない。

大雑把に、

  • ゲームセンターが主な舞台(仮構する場合、時代なりの店内風景の考証はなされるべき)
    • ゲーセン外の市街ディテール
  • そこに入り浸っている登場人物たち(仮構する場合でも、モデルになる人物が居たほうが重みが出る)
  • あまり絡まないがときどき絡む人間模様
    • ゲーセンクイーン等
    • 断絶しているクラスタ
    • 「僕の血は鉄の味がする」的ななにか
  • 実在する業務用ビデオゲーム(事実に基づくべき。あと体感筐体はちょっと違う気がする)
  • プレイの実際や、攻略ノウハウと、それが解明され伝播する時系(事実に基づくべき)

以上のような要素がしっかりしていれば、ゲーセン小説といえると思う。いま適当に書いたので抜けがあるかも。いずれ正しいゲーセン小説が出ないものかと願っている。ブームとしての対戦格闘は歴史としてしばらく残るのだろうが、風俗としてのゲーセン空間は、当事者の記憶が薄れ消えてしまう前に時代時代で記録していかないと、なかったことになりそうだ。まあこういうの自分の体験した時代の後ろ向きな追体験であるとか、史観バトル発生源であったりとか、オタマッチョ的な紛争を誘引しそうな欲望だなとおもうのであまり深入りするとアレだが(関連→ニューラリー X の BGM さえ鳴ってれば大喜びの元 NAMCO チルドレン問題等)。

多様な人間に微妙な由縁があって交錯したり衝突したりする舞台を描くお話というのは、橋でも駅でもバス停でも定食屋でもホテルでも喫茶店でもゲーセンでも、まあべつにどこであろうと成立するし、ネタと扱い次第でおもしろくなるものだろう。だから一風変わった内容にはなるだろうが、特殊な小説になるとは思わない。あと、あれから桜坂洋スラムオンライン」という小説が出て、それがどうもゲーセン小説らしいのだが、設定が近未来でゲーセンゲーマー的なディテールがいまひとつ 90 年代的なそれとは違うそうで、なんとなく腰が引けてまだ手にとっていない(主人公がガチ勢っぽいらしいというあたりで、近未来ゲーセン創作としておもしろがったりむかついたりできるのかもしれないが)。

あとそういった物語とは別に、史実の資料として、できるものなら全国ゲーセンノートアーカイブとかどこかの誰かにまとめて欲しい。読みきれないくらいの分量の電子文書が望ましいが、だめそうだったら適当にまとめて 90 年度宇津帆島全誌的なかんじの書籍でもいいや。ゲーセン界の柳田國男氏みたいなひとが彗星のごとくあらわれてくれたりとかして。