ドラえもん のび太の新魔界大冒険 七人の魔法使い
先日時かけを見た(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20080510#p3)関係で、「あー近年のアニメ映画でタイムトラベルつながりー」と思い新魔界を視聴。そういう視点でみるとだいぶおもしろいなー話としても。エモ部分とかは散発的であまり流れとしてどうこうって映画でもないんだけど(途中参加のドラミが「かくかくしかじか」の説明でどこまで当事者意識をもったのか不明だけど全員涙のクライマックスシーンで「空気を読んで」泣いてるところとか)。いやそこいらへんにはいまのところ掘っておもしろそうな鉱脈を見つけてないので置いとくとして。
魔界大冒険は、世代的なものだけども「これがタイムトラベルもの初体験」ってオタがかなり居るんじゃないかと思うんだけど、話はそう単純じゃなくて実際には「タイムトラベル×パラレルワールドもの」なわけだ。台詞としてもきちんと説明されている。実際には個別に導入されたというより、タイムパラドクス問題解決として「パラレルワールドです」と宣言する手法が採用されている、という意味なんだけど、でも秘密道具の順番でいうとタイムマシンより先にもしもボックスを使ってる…というか全部終わったあとのタイムテーブルでいうともちろん過去に戻ったタイムマシンは過去だからやっぱりタイムマシンが先…とはいってもじつはここでかなりおかしな現象が起きていて、ようは「世界は二つ(科学 / 魔法)に分岐する前の時間に戻ったのび太がホウキで空を飛ぶ=魔法を使っている」というのがどういう意味なのか、つまり一旦パラレルワールドに分岐した側のタイムマシンで分岐前の時間に戻ったときにそれは「元の科学の世界」なのか「分岐した魔法世界の過去」なのか「どちらでもない新しい世界(遡上することによって生じた新しいパラレルワールドなのか)」、みたいなところで解釈がパラレルになる。
これは時かけの場合の「タイムリープ(時かけの場合、タイムパラドクス解決のため「ひとつの時間の中に同じ人物は一人しか居ない、ので自分の存在する過去へタイムリープした場合「本来その時間に居た自分」が消失し、かわりに未来の意識をもった自分が過去の肉体&装備状態で目標地点に出現する」という手法を採用している)を駆使して記憶では 10 時間ぶんくらいカラオケ屋で熱唱した(ただしその時点の肉体は 2 時間しか歌ってない)あと、家に戻ったときに「まるで連続 10 時間くらい熱唱したかのように」声が嗄れている」というアレに近いシーンだ。ノリで見た場合には単なるギャグなんだけど、ギャグにも意味がちゃんとあるのかもと深読みしはじめると底がない。
まあそこいらへんの対照表とか作るとおもろいかもなーとか思ったのがひとつと、あと時かけとは全然違う部分で感動したのは、のび太が「それがパラレルワールドだとわかったうえで、もしもボックスによる途中解決を拒否して再び魔界へ戻る」という部分だなー。のび太は現実がいやだと仮想に逃げ込んだんだから、今度は仮想がヤバくなったら現実に逃げ戻っていいわけだよ。散々逃げまくって逃げ切れなかったのび太が、今度こそ逃げ切れるというところで踏みとどまったのは、どう考えても偉いだろう。たぶんメタには自分が作った物語(世界)の責任を取るって意味もあるだろう。でもここで提示されているのは、もうちょっとシンプルな話だと思うんだよね、つまり、現実を拒否して空想に逃避したり、過剰に現実を肯定するあまり空想を否定したり、どっちか一方だけ選ぶみたいな貧乏くさい(余裕のない)選択でなく、自分自身の現実がどちら側なのかの区別ははっきりしていて、自分はいずれそこへ帰るのだという意志を踏まえたうえで、現実だろうともしもの世界だろうとそこにリアリティの区別はなく、つまり今となってはどっちもリアルなんだから、どっちも捨てないんだということだと思うんだよね。この粘り腰。大人っつーかエリートの態度だよこれは。のび太成長した。
現実世界に戻ったあとの空き地に居るジャイアンとスネ夫としずちゃんは、現実世界の彼らで、魔法世界でのび太と一緒に戦った彼らではない。一緒に戦った彼らと別れて、一緒に戦っていない彼らのもとへ帰っていく。冒険の記憶が子供たちにだけ共有された(それが、のびママのキョトンとした顔とのコントラストによって明示された)「のび太の恐竜」と比べると、魔界大冒険は個人の記憶になっていて、なんかちょっと高学年向けなかんじだなーとしみじみしたりもする。…まあしかし、ちょっと気になることはあって、新魔界になって追加された、冒頭とエンディングにちょっとだけ出てくる「現実側の満月博士と美夜子さんが直面している危機」が、どうも並行世界側での問題解決に連動して解決されているっぽく見える演出になっているあたりは、あんま個別の危機としてパラレルっぽくないのですか的なアレになっていそうで以下略。