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失踪日記

失踪日記

行っちゃっては帰ってくるひと、吾妻ひでお氏による実話漫画。あまりそこに感心するのもどうかと思いつつ、さすが吾妻氏は漫画がうまいなあとじみじみ思った。ひさしぶりにちゃんと漫画家のひとの描いた漫画を読んだ気分。もえもえ漫画ばかり食っていてはいかんな、マクドフィレオフィッシュばかり食ってると、魚というのは海の中を泳いでるブロック状の骨なし生物だと錯覚する、モスバーガーばかり食ってると、世界のどこかでソーセージ状の長大トマトが栽培されてるのだと錯覚する。そんな馬鹿なと思いながら、馬鹿みたいな錯角に陥ることは珍しくない、漫画家の漫画技は、漫画のためにあるのだと思える材料は現在でも豊富にあるけど、最近は選択肢がそれ以外にもけっこうあるのであれこれつまんでるうちに機会を逸してしまいがちになる。

おもしろく読んだが、これもまたおもしろかったと言いづらい漫画だ。けど「失踪日記」に関しては、そこでおもしろいと言いづらくかんじているような曖昧のモラルへの帰順意識みたいなものは無価値なので丁寧にほどいてバラして生ゴミに出すべきだ。たぶんこれ何度もパラパラ読む本になるだろうなと思う。あと吾妻氏は行っちゃっても帰ってこれるひとだから失踪できちゃうのかもしれないなあとは思ったが、それは今回たまたま帰ってきてるからいえることであって、これまでについてもこれからについても、実際どうなのかは吾妻氏自身やその家族のひとたちにしかわかり方がなく、おれが考えるところではない。

なんだろなー超然としたタッチで淡々と描かれてるので全然洒落になってないようには感じない。ふつうだったらだめかもなこれはと思うようなことも読み下せる。読んだあとでいやこれはやっぱまずいのではないかとか気付くこともあるが、吾妻ひでお氏の描線はしなやかでありつつも揺ぎないので印象の訂正などは行う余地がない。これはこういうものであり、ほかではないのだ。漫画において作者の視点っていうか描線って本当に大事なのだな、それを通してしか何事も描かれないからな。誰が描いても同じ感情としてそれがあるかのように感じる(←いうなれば規格化して流通しやすくしている)筆致でない、借りてきた価値観やパッチワークの世界観や、そのようなもの以前からある基本的な情感表現、つまり「失踪日記」が吾妻ひでお氏作品であるという点について疑う余地はない。作風が印刷を通しても乖離することなくページに固着している。

すったもんだあって章の終わりで帰ってきた吾妻氏が、次のページめくったらまたどこかへ行っちゃってしまっている落差と、その落差のない描かれ方がまたすごい。まあいろいろあったんだろう。目の前が階段なのか床なのかとか考えずただ足を出して今まで歩いてきたというかんじ。体当たりといえば体当たりだが、それを言ったら人間誰でも空気に体当たりしながら生きている。これを特殊だとは思わない。誰もが吾妻氏のような技術をもっているわけではないというそれだけの話で、だからこの漫画は貴重だしおもしろい。